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孫子の兵法  

SUN TZU ON THE ART OF WAR
THE OLDEST MILITARY TREATISE IN THE WORLD
Translated from the Chinese
By LIONEL GILES, M.A. (1910)


一・作戦を立てる


1.孫子は言いました。「兵法は国家にとってたいへん重要なものです。

2.生きるか死ぬかを決めるような問題であり、平和か破滅かの分かれ道でもあります。だから、ぜったいに無視できない研究対象なのです。

3.さて、兵法というものは必ず五つの基本的な要項によって決定されるものであり、戦場で情勢を理解しようとするときには、よくよく考慮に入れなければいけません。

4.その五つとは(1)徳のある法律(2)天意(3)地の利(4)指揮官(5)作戦と規律のことです。

5、6.(1)国に徳のある法律が施行されていれば、兵士たちみんなは国主と完璧に一体となって、自分たちの死をも顧みずに彼に従い、どんな危険にもめげることはありません。



7.(2)天意は夜と昼の変化、寒さや暑さ、時と季節の移ろいなどの自然の秩序にその兆しを現します。

8.(3)地面は距離、大きいものと小さいもの、つまり危険と安全、すなわち開けた土地と狭い小道、ということはつまり生きるチャンスと死の機会とで出来ているものです。

9.(4)指揮官とは知恵、誠実さ、慈悲深さ、勇気、厳格さという道徳的美点を備えた人のことです。

10.(5)作戦と規律を用いるというのは、部隊の適切な部署割り、将校の階級の等級付け、物資を軍に供給するための補給路の整備、軍事費の制御ということだと理解されなくてはなりません。

11.この五つはおよそ将軍たる者はみな熟知していなけれなばりません。これに通 じている者が勝利を収めるのです。そして、このことを知らない者は負けてしまうでしょう。

12.それゆえ、自軍の状況を判断しようと考える際には、次のようなやり方を比較の基準にしましょう。

13.(1)どちらの君主が善政を敷いていますか?
   (2)どちらの将軍がより有能ですか?
   (3)天の利、地の利はどちらにありますか?
   (4)どちらがより厳格な規律のもとにありますか?
   (5)どちらの軍隊が強いですか?
   (6)どちらの士卒がよりしっかり訓練されていますか?
   (7)どちらの軍隊で賞罰が公明に行われていますか?

14.この七つの考察でもって勝利か敗北かを前もって知ることができます。

15.私の助言に耳を傾け、それに従って行動する将軍は勝ちます。そんな人物を雇いましょう!私の助言に耳を傾けず、それに従って行動しない将軍は一敗地にまみれます。そんな将軍は解雇してしまいなさい!

16.私の助言の利益を受けると同時に、普通の作戦に加えていかなる有用な状況をも利用しなさい。

17.有利な状況に応じて作戦は変更していかなければなりません。

18.あらゆる戦争は騙し合いです。(兵とは詭道なり)

19.ゆえに、攻めることが出来るなら、出来ないと見せかけなければならず、軍事力を用いるときには動かないと見せかけなければいけません。すなわち、敵の近くにいるときには敵に遠くにいると思わせ、遠くにいるときには、近くにいると思わせるのです。

20.敵をおびき寄せるために餌をまいておきなさい。混乱していると装い、それから叩きつぶすのです。

21.あらゆる点で相手が難攻不落なら、攻めてくるのに備えなさい。相手が優勢であれば、回避しなさい。

22.敵が怒りっぽいのであれば、いらつかせてやりなさい。こちらが弱いふりをしていれば相手は尊大になるでしょう。

23.相手が楽にしているのであれば、休む暇を与えてはいけません。結束が固ければ、分裂させてやりなさい。

24.備えのないところから攻め、予期せぬところから姿を現しましょう。

25.勝つためのこれらの軍事作戦は事前に漏らしてはいけません。

26.戦いに勝つ将軍はやがて起きる戦争を頭の中で何度も計算します。負ける将軍は事前に少ししか計算をしません。このように、数多く計算することは勝利に繋がり、少ししか計算しないことは敗北に繋がるのです。ましてや全く計算しないよりはるかにましです!この点を注意して見ることで私はどちらが勝ちそうでどちらが負けそうかを見極めるのです」



 

二・戦争の遂行


1.孫子は言いました。「戦争をするにあたっては、千の戦車にそれと同数の重戦車、千里の行軍に十分な糧秣を備えた十万の武装した兵士、外交使節を迎える費用、膠や漆のような細々とした物品、戦車と武具の維持費を含む本陣と前線の軍事費は、総額で一日に銀千オンスにのぼります。十万の軍勢を出陣させるにはこれほどの費用がかかってしまうのです。

2.実際の戦闘に臨んで、勝利を得るのに時間がかかってしまうと、兵卒の武器はなまくらになり、その勢いはそがれてしまいます。都市を包囲して闘うなら、自軍の優勢を使い果 たしてしまうでしょう。

3.繰り返します。もし軍事行動が長引いてしまえば、自国の資源は使い果たされたも同然となってしまうのです。

4.ですから、あなたの武器は切れ味がなくなり、兵卒は勢いをそがれ、優位性は使い果 たされ、財産は浪費してしまったとなれば、諸侯はあなたの窮地につけこむために飛びかかってくるでしょう。そうなれば、いかに賢い人であっても、その後に続く事態を避けることはできません。

5.ゆえに、戦争においては愚かな迅速さというのはあっても、長く時間をかけてしまうことに賢さが見受けられるなどということは決してないのです。

6.長引く戦役から利益を得た国の例などありません。

7.戦争の悪弊に完全に通じている者だけが、戦端を開くことで利益を得る方法の全てを理解できるのです。

8.優れた兵隊は二度目の徴兵には応じず、また食料運搬車を三度も満載にしたりはしません。

9.軍需物資は国から持って行きましょう。でも食糧は敵方のものを。こうして軍隊は自分たちに必要な食べ物を手に入れるのです。

10.国庫が窮乏すれば、軍勢は遠方からの財政負担によって維持されることになります。遠方の軍勢を維持するために財政負担するとなると、国民は貧窮するのです。

11.その一方で、軍隊が近隣にいることは物価を上昇させてしまいます。そして、物価高は国民の資産を奪い取ってしまいます。

12.国民の資産が奪われると、農民たちは重い年貢の取り立てに苦しむことになるでしょう。

13,14.このような資産の喪失と意気阻喪によって、人々の家々はすっかり丸裸にされ、収入の三分の一が失われてしまうでしょう。一方で政府も、戦車の修繕費用や疲れた馬、胸当てや兜、弓矢、槍や楯、鎧、運搬用の牛、大型車両のための出費が歳入の四分の一にまでなってしまうのです。

15.だからこそ、賢い将軍は敵の糧秣を狙うのです。敵の食糧一台分は自軍の食糧二十台分に相当します。また同じように相手方の飼い葉一担はこちら側の備蓄分の二十担分に値します。

16.敵を殺すにあたっては、自軍は怒りにまかせた状態にあります。兵士は敵を倒すことで褒賞をもらえるに違いないからです。

17.それに対し、戦車戦では、十台かそれ以上の戦車を捕獲した場合、最初に捕らえた者にはかならず恩賞を与えましょう。味方の旗を敵の旗と取り替え、自軍のと混ぜて一緒に使わなければいけません。捕らえた敵兵は親切に遇して手元に置いておきましょう。

18.これが征服した敵を使って自軍の力を増すということです。

19.戦争においては、最大の目的は長引く作戦行動ではなく、勝つことに定めましょう。

20.というわけで、軍を率いる者は国民の運命を握る、国の安泰か危機かを左右する存在なのです。





三・計略を用いて攻撃する


1.孫子は言いました。「実践的な兵法では、何よりもいいのは敵の国をそっくりそのまま無傷で頂いてしまうことです。散々に破壊してしまうのは上策ではありません。ですから、それと同じように敵兵を捕虜にする方が撃滅するよりもよくて、敵の分隊や連隊、中隊を捕らえる方が殲滅してしまうよりもいいのです。

2.したがって、戦争の間中ずっと闘って相手を征服するのは最上のことではありません。最上の策とは、闘わずに相手の抵抗をなくしてしまうことにあるのです。

3.用兵術の最高の形は、敵の作戦をくじいてしまうことです。次善は敵の軍隊の連携を断ち切ってしまうことで、その次によいのが戦場で敵を攻撃すること、そして最悪の手段が城塞都市の包囲戦です。

4.もし可能ならば城塞化された都市への攻撃は避けるのが常道です。防楯や城攻め用の車輌、それからさまざまな武具を準備するのに丸々三ヶ月はかかってしまいます。そして防壁を越える土塁を積み上げるのにさらに三ヶ月かかってしまうでしょう。

5.もし将軍が自分の怒気をコントロールできないような場合は、自軍の兵士たちをまるでアリの群のように強襲させてしまい、その結果 、自軍の三分の一が死傷したのに相手方の城塞はまだ陥落しないなどという羽目になってしまいます。これが攻城戦の害悪です。

6.それに対して、有能な指揮官は敵の大群を闘わずして捕捉してしまいます。城塞を囲むことなく陥落させ、戦場で長期間戦闘することなしに敵国を転覆させるのです。

7.自軍は無傷のままに天下の覇権を争い、一兵も失うことなく完全な勝利を手に入れる。これが計略をもって攻撃することの原則です。

8.自軍が敵の十倍であれば、包囲しましょう。五倍であれば、攻撃しなさい。二倍であれば、自軍を二手に分けましょう。

9.もし同数であるならば、戦いを挑んでも構いません。やや数が少ないのであれば、敵を回避しましょう。もしどうやっても不利な場合は、身を隠すのです。

10.ゆえに、勝ち目のない戦いは弱い方の軍が起こしたものかもしれませんが、最後には強い方に捕らえられてしまうことになるのです。

11.さて、将軍は国の防壁です。もし防壁があらゆる点で完璧であれば、国は強いでしょう。もし防壁に欠陥があれば、国は弱くなります。

12.国王が自軍に不幸をもたらすのには三つのやり方があります。

13.(1)実際には無理であることも知らず、軍隊に進めだの退けだのと命令すること。このようなことを軍の足を引っ張るというのです。

14.(2)軍隊の現場のことを無視して、国を治めるのと同じやり方で軍隊も統率しようとすること。これをすると兵士は投げやりになってしまいます。

15.(3)軍の現状に適した方針を無視して、自軍の将校を雇うのに分け隔てなく誰でも雇ってしまうこと。これでは兵士の信頼が揺らいでしまいます。

16.軍がやけっぱちで不信感を持っている状態であれば、諸外国は必ずや攻め込んで来ることになります。それではただ軍に無秩序をもたらすことになり、みすみす勝利を逃してしまいます。

17.そういうわけで、わたしたちは勝利の五つの法則を知ったことになります。

 (1)いつ闘うべきで、いつ闘わないでいるべきかを知っている人は勝ちます。
 (2)優勢な軍隊と劣性な軍隊の両方の扱い方を知っている人は勝ちます。
 (3)どの階級の兵士も心を一つにして鼓舞されている軍隊を率いる人は勝ちます。
 (4)常に備えがあって、敵の備えが薄いときを狙う人は勝ちます。
 (5)軍事の才能があって、国王が干渉してこない人は勝ちます。

18.というようなわけで、こんなことが言われるのです。「敵と自分自身のことを理解していれば、百回の戦闘にもその結果 を心配する必要はありません。自分ことは分かっているけれども敵のことは知らないという場合は、勝利を得る度に同じくらい負けて苦しみもするでしょう。もし敵のことも味方のことも理解していなければ、どの戦いでもボロ負けしてしまうでしょう」と。



 

四・戦略的な作戦計画


1.孫子は言いました。「昔の優秀な戦士たちは、まず負けるはずのない態勢を作り上げてから、敵を倒せる機会を待ちました。

2.負けない態勢を作ることはこちら側の問題です。敵を倒せる機会ができるかどうかは相手側の問題なのです。

3.つまり、いい戦士たちは負けない態勢を作ることはできますが、敵を倒す機会を作ることはできないのです。

4.ですから「敵を倒すやり方を知っている人も、それができるわけではない」と言われているのです。

5.負けない体勢というのは守備態勢のことです。敵を倒せる能力というのは攻撃に回るということです。

6.守りに回るというのは、そんなに強くはないということを示します。攻撃するということは、圧倒的に強いということです。

7.守りに長けた人は地中奥深くのいちばん隠れたところに身を隠します。攻撃に長けた人は天の高見から急襲するのです。つまり一方で防御の能力を持っていれば、もう一方には完全な勝利があるのです。

8.一般の人たちに理解できる程度のものであった場合にしか勝利と見なさないようであれば、最高に優れているとはいえません。

9.闘って相手を征服し、国中が「よくやった!」と誉めてくれても、やはり最高に優れているとはいえません。

10.細くなった髪の毛を持ち上げても力持ちだということにはなりません。太陽や月が見えたからといってことさら目がいいというわけではありません。雷鳴が聞こえたからといって耳がいいというわけではありません。

11.昔の人たちは優れた戦士のことを、ただ勝つだけでなく、いとも簡単に勝つところがすごいと言っていました。

12.というのも、そんな人の勝利は知恵を讃えられたり、勇気を賞賛されたりはしないからです。

13.そのような人はミスを犯さずに戦いに勝ちます。ミスを犯さなければ、勝利は確かなものになります。なぜなら敵を征服する前にもう勝ったことになっているからです。

14.というのも、優れた兵士は負けることがあり得ない立場に身を置き、敵を倒せる瞬間を見逃したりはしないからです。

15.そんなわけで、勝利する軍の作戦を立てる人は、すでに勝ってしまってから戦争を始めますが、負けると決まっているような人はまず始めに戦って、その後から勝利を求めるのです。

16.立派なリーダーは徳の高い政治を敷き、秩序と規律を厳格に守ります。だから勝利を収めるのも思うがままなのです。

17.軍隊の運用についてわたしたちが見てきたのは、まず一番目には計ること、二番目には量 を見積もること、三番目には計算すること、四番目にはチャンスをそれぞれ比べてみること、五番目には勝利することです。

18.計るというのは、地面あってのことです。量を見積もるのは計ること、計算は数の見積もり、チャンスをそれぞれ比べてみることは計算、勝利はチャンスをそれぞれ比べてみることがあって成り立つのです。

19.行軍してくる敵軍に向かい合った勝利する軍隊は、一粒の種と一緒に計りに乗せられた1ポンドの錘のようなものです。

20.相手を征服しようとする軍の突撃は、せき止められた水が決壊して六百フィートの谷になだれ込むのと似ています。

 

五・勢い
 

1.孫子は言いました。「大軍を率いるのは、その原理は少人数を率いるのと同じです。ただその人数分けが問題になるだけなのです。

2.軍を率いて人数の多い敵と戦うのは、少人数の敵と戦うのとほとんど違いはありません。号令や合図が問題になるだけです。

3.自軍が敵軍の猛攻に必ず耐えて、揺るがないでいられるようにすること。これは正攻法と奇襲の作戦行動によってできることです。

4.自軍の攻撃が卵に投げつけられた石のようであるのは、これは弱点と強みを研究したからこそなのです。

5.どんな戦いでも、戦端を開くのには正攻法がとられるでしょう。しかし奇襲作戦は勝利を確実にするために必要とされるはずです。

6.奇襲作戦を効果的に用いれば、さながら天と地のように疲れを知らず、また川が溢れたり流れるように無尽蔵に、太陽と月のように沈んでもまた新たに昇り、四季の移り変わりのように去ってもまた舞い戻って来るようになるのです。

7.五つの音しかなくても、その五つが組合わされば聞いたこともないようなメロディーを奏でることにもなります。

8.五つの原色(青、黄色、赤、白、黒)しかなくても、組み合わせれば見たこともないような色合いになります。

9.主な味覚は五つ(酸っぱさ、辛さ、塩辛さ、甘さ、苦さ)しかなくても、組み合わせればこれまでにない味わいを生み出すようになります。

10.戦闘中には二つの攻撃方法しかありません。正攻法と奇襲です。それでもこの二つを組み合わせれば無限の作戦ができるのです。

 

つづく
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プロジェクト杉田玄白 正式参加 版権についてはリンク先を参照してください。一応ここでもはっきりしておきますが、クレジットさえ残していただければどのようなかたちであれ再利用は許可されます。訳者の承認を得る必要もありません。

原文は Project Gutenberg にあるものを使用しました。したがってProject Gutenberg の名前を使って商業利用をする場合は制限があります。使わなければいかなるかたちであっても再利用に制限はありません。(つまり、この訳文自体には利用制限はありません。クレジットさえ残せば商業利用も含めてどのように利用されても構いません)

00/09/29 第二章追加

00/10/22 第三章追加 細かいところを訂正

00/10/23 第四章追加 素早い更新に我ながら感心。

01/09/02 遅ればせながら第五章追加。一年近くも放っておいたのか・・・

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(c) 八木都志郎
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